インドとパキスタンが領有権を争うインド北部ジャム・カシミール州に、身元不明の遺体が埋葬される集団墓地が存在する。その数は最大65カ所で、合わせて2千体以上とされる。遺体の多くは、インド軍や州警察にパキスタンの武装勢力のメンバーなどと一方的に断定され、誘拐・殺害されたイスラム教徒のカシミール人たちとみられている。州の人権委員会は最近、集団墓地に関する報告書を公表したものの、州政府とインド政府が実態解明に乗り出す動きはほとんどない。(インド北部スリナガル田北真樹子)
夏の州都スリナガルから北に約110キロ、パキスタン国境から約50キロのコプワラ地区の入り口にある丘の斜面に集団墓地は広がっていた。放置された白い担架が不気味だ。丘の上には小学校が建っており、児童は毎日、墓地を見ながら通学する。
すべての墓には墓標が建てられ、埋葬された順番と年月日が記されている。その順番は「1995年6月26日」から始まり400を超すという。
「昨年は約40体を埋葬した」。墓地を管理するカシミール人男性は、名前を明かさないことを条件に口を開いた。住民らは警察から埋葬の指示を受ける。埋葬にかかる費用は一体あたり1500ルピー(約2400円)。警察から埋葬費用の支給はないが、「イスラム教徒として遺体を埋葬するのは当然のこと」として、住民らが金を出し合う。
遺体の多くは10代後半から20代前半の男性で、身元が確認できないほど顔をつぶされていたり、炭化したりしているという。
ジャム・カシミール州人権委員会は今年8月、3年かけてまとめた調査報告書の中で、州北部38カ所の集団墓地と2156体の身元不明の遺体を確認したと公表した。一方、州の民間人権団体は、62カ所で2373の墓を確認したとする。
同州では89年夏以降、パキスタンから越境してくるイスラム過激派の武装闘争が激化したため、インド政府は翌90年、インド軍特別権限法(AFSPA)を同州に適用して武装勢力の取り締まりを強化した。
しかし、軍だけでなく同法とは関係のない州警察なども加わって、インド支配に反発するカシミール人を拘束して拷問したり、殺害したりしているとの指摘もあり、その手法は国際人権団体などから弾圧との批判を招いている。
身元不明の遺体について、カシミール地方の民間人権団体のクラム・パルベーズ氏は、「インド軍やほかの治安部隊によって殺害された地元カシミール人だ」と主張する。軍は「遺体はパキスタンの支援を受けた外国人武装勢力」と強調するが、パルベーズ氏は、「これまで州政府が掘り返した遺体53体のうち49体が地元住民だったことをどう説明するのか」と反論する。同州では過去22年の間に約8千人が行方不明になっているとされる。
パルベーズ氏らは、無名墓地の真相究明を求めているほか、DNA鑑定によって、埋葬されている遺体が行方不明者かどうかを調査すべきだと主張している。しかし、州政府はこれまで実施したDNA鑑定の結果についてさえ公表しておらず、州政府や中央政府から前向きな回答を得るのは困難とみられている。
「身元不明者の集団墓地問題の責任は、政府としてカシミール問題の解決に当たろうとしないインド政府側にある」と、パルベーズ氏は政府の消極的な姿勢を批判している。
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◆遺体 (いたい):遗体
◆埋葬 (まいそう):埋葬◆姿勢 (しせい) :姿势