「無生物主語をめぐる問題点について」(1976)
『日本語学校論集3号』東京外国語大学附属日本語学校
(現:留学生日本語教育センター)による はじめに 日本語では無生物を主語とする他動詞の文は少ないと言われている。例えば、Bad weather prevented them from sailing.
→ 天気が悪かったので、彼らは出航できなかった。
Izu Earthquake Killed 20 Persons(新聞の見出し)→ 伊豆地震で死者20名
しかし、それは英語とだけ比べた場合である。他の諸言語ではどうか。
英語 The book will teach you the first steps of English. ドイツ語 Dieses Buch lehrt Sie die Anfangsgründe der englischen Sprache. オランダ語 Dit boek zal uw eerste schreden in de Engelse taal leiden. デンマーク語 Denne bog vil lære Dem de første skridt i engelsk. スウェーデン語 Denna bok lär er att taga de första stegen i engelska. ノルウェー語 Denne boken vil lære Dem de første skritt i bruken av engelsk. フランス語 Ce livre vous apprendra les éléments de l' anglais. イタリア語 Questo libro insegna i primi passi dell' inglese. スペイン語 Este libro le enseña a usted a dar los primeros pasos para aprender inglés. ポルトガル語 Este livro vai lhe ensinar as primeiras noções de inglês. ロシア語 Эта книга научит Вас основам английского языка. フィンランド語 Tämä kirja opettaa Teille englanninkielen alkuaskeleet. ルーマニア語 Cu ajutorul acestei carti, veti face primii pasi in cunostinta limbei engleze. ハンガリー語 Ebbol a konyvbol megtanulhatjuk az angol nyelv elemeit. トルコ語 Bu kitap sizlere ingilizcenin ilk hamlesini ogretmek amacile tertib edildi. 韓国語 tangsini i chegul kacigo yongo choborul kongbu halsu issumnida. 中国語 這本是學英國話的入門書、… 日本語 此の本は英語の第一歩を教えるもので、… *ルーマニア語、ハンガリー語、トルコ語は文字に付く記号を省いた。韓国語は概略の翻字。
"English through Pictures"
I. A. RICHARDS and CHRISTINE M. GIBSON - POCKET BOOKS, INC. NEW YORK
A 無生物主語+他動詞 「この本は~教える」 英語からフィンランド語までの多くの言語 B [物]によって 「この本によって~学ぶ」 ルーマニア語、ハンガリー語、韓国語 C [物]は [物]である 「この本は~ものである」 中国語、日本語 D その他 「この本は英語の第一歩を教える目的で編集された」 トルコ語 ○「『XYZテレビのコンピュータが予測したところでは~』という言い方をするが、本当はコンピュータが予想しているのではなく、XYZテレビ局がコンピュータを使って予想しているにすぎない。」
こういう言い方があるということは、現実をどう捉えて表現するか、という問題に帰着する。
||| 日本語の無生物主語・他動詞構文の分類
- 形状描写・関係描写の表現
空気が地球をとりまき、包んでいる。
チューリップが円陣をつくって咲いている。 疑似他動詞構文
太陽が姿を現した。
雪上車が故障を起こした。 自然界の動きの表現
太陽が大氷原を照らし続ける。
溶岩が地面を押し上げていく。 付帯的状態の表現
溶岩は、白煙をふき、うなりをたてながら押し上がっていきます。
トロッコは、みかん畑のにおいをあおりながら、線路を走りだした。 人間が関与する表現
文明は人間にいろいろなものを与えた。
ことばがわからないとき、辞書が助けてくれます。 原因構文
その泣き声は、彼のまわりへ、いちどに父や母を集まらせた。
灰は三十センチ以上も積もって、木々や作物を枯らした。
- 飛行機雲が豊かな曲線を描いている。[素材]が[形状]を形づくる 家々が泥溝を挟んでいる。 その肉体が空間を占めている。 筏がその上に土を乗せている。[交通機関]が 物を のせている 石炭を積んだ荷船 物をのせた[交通機関] 枕木を積んだトロッコ 雪をいただくキリマンジャロ 2疑似他動詞構文
- 太陽が姿を現した。(=現れた。) 火山は、鳴りをひそめている。 (=鳴っていない。) 火山は、噴火を起こしている。 (=噴火している。) 火山の活動は、なお衰えを見せない。(=衰えていない。) 溶岩は、上昇を続ける。 (=上昇し続ける。) 溶岩は、地表には顔を出さず…… (=現れず……) 新しい山はその高さを増していった。(=高くなっていった。) 雪上車が積み荷の重さに進行をおくらせた。(=おくれた。) 3自然界の動きの表現
- 太陽が大氷原を照らす。 溶岩が地面を押し上げる。 この溶岩は、美しいだいだい色の光を放っている。 からすの黒い背中が、きらりと日の光を反射する。 4付帯的状態の表現
- 溶岩が、白煙をふきながら、押し上がっていく。 トロッコは、みかん畑のにおいをあおりながら、線路を走る。 トロッコは人手を借りずに走ってくる。 車は海を右にしながら、走っていった。 5人間が関与する表現
- 文明は人間にいろいろなものを与えた。 ことばがわからないとき、辞書が助けてくれます。 昔から筆まめに書くことが、書く人を成長させ、世の中を進歩させてきました。 アフリカの探検記が、日本のひとりの子どもの心をかきたてた。 測候所のシグナルが平和な風速を示して塔の上へ昇っていった。 これは明らかに、彼の敗北を物語っているのと同様だった。 この事故は、一行の前途が容易でないことを思わせた。 6原因構文
- 灰が積もって、作物を枯らした。[=灰が積もって、そのために作物が枯れた。] その泣き声は、彼のまわりへ、いちどに父や母を集まらせた。 二度めの車輪の音は、もう彼を驚かさなかった。 ふき出された岩石は、家々の屋根に穴をあけ、窓をこわしました。 大きなわれ目が雪上車の進行をさまたげた。 雪あらしは雪上車の速度をにぶらせた。 参 考
- その泣き声は、彼のまわりへ、いちどに父や母を集まらせた。(再掲) 「--」と、大きな声で、うちじゅうの者を、みんな集めてしまった。 その声があまり激しかったせいか、近所の女衆も三、四人、薄暗い間口へ集まって来た。
|||研究会のときに出された 主な意見とそれに対する吉川の見解 をまとめてみました。 G: 「バスは人を乗せている」はちょっと文学的ですね。
学生がこう書いてきたら「人がバスに乗っている」と直したい。 Y: おかしいですか?[おかしくない、と暗に主張]
「文学的」というのは、「西洋の言語の直訳調」というほどの意味ですが。 I: 「バスはハイジャック犯を乗せて走っている」は?[おかしくない、との補強発言] Y: 「人」のような不特定の名詞では、少しおかしい。 G: 「バスは子どもを乗せている」は?[おかしくない、と主張] {??初めの主張と逆になった} G: 「自転車は子どもを乗せている」はどう?[おかしくない、と主張]
自転車とバスは違う。バスには運転手がいるけど、自転車はそうじゃない。 Y: そう言われれば、おかしいかな。なるほど。 G: 分類1の「雪をいただくキリマンジャロ」は金田一(春)の第4種の動詞の例ですね。 Y: そうですね。その類の例ですね。 G: 分類3の「太陽は氷原を照らした」の太陽は擬人化されたものと考えられませんか。 Y: 安易に擬人化とか擬人法を持ち出したくないんです。
どうしてもダメな場合もありますが。 G: 黒板は擬人化されにくいが、時計は擬人化されやすい。 Y: 黒板と時計の違いは? G: 時計は動いている。 Y: 例をたくさん集めて、何が「黒板」の類か、何が「時計」の類かを調べる必要があります。初めから「黒板」か「時計」か決まっているわけではありません。
逆に、無生物主語・他動詞構文から、書いた人の意図を探ることができるのでしょう。
なぜ無生物主語・他動詞構文を用いたか、その名詞を「擬人化」した意図は何かなど。 N: 分類1の動詞になるのは「含む、収容する」などですね。 K: 化学(科学)の文章などによくありますね。
「この果物はビタミンCを含んでいる」とか。 G: 分類2の「姿を現す」などでは、対象は主体の「部分」ですね。 Y: そうです。というか、全体であったり、一部分であったり。
イタリア語の si は他動詞を自動詞にする働きがありますが、この si のようなものですね。 [ si (代名詞)「自分自身を」。英語の -self に当たる] G: 分類5では、主語の名詞の背後に人を感じますが。 Y: 分類5は、あくまでもニ格、ヲ格に人が来る場合(現れていなくても、予想される場合)を取り上げました。ガ格(主語)の背後に人が感じられるとしても、その意図でまとめたものではありません。 G: 「公害が人を苦しめる」などたくさんありますよ。 Y: はい、人間活動を表す名詞を主語にする場合ですね。そうですね。その類がありますね。 G: 学生(日本語学習者)が原因構文の文を書いて来たらどうしますか。 X: 普通の言い方に直します。 Y: 私だったら、どこで習ったか聞いて「はなまる」を付けます。 I: 学習のレベルによるんでしょうね。 Y: ええ。こういう文は高級な文学的な文で、日本語には少ないよ、と言います。その上で、作文の中の他の部分と釣り合いが取れないとおかしいですから、その点、注意すると思います。 S: 英語を直訳すると、おかしな日本語になることがあって、その一つが原因構文だと分かりました。他にどんなのがあるでしょうか。 Y: 英語の無生物主語・他動詞構文を調べなければ分かりませんが、
this road takes you ~とか this paper attempts ~というのがありますね。イタリア語では La legge proibisce ~(法律が~を禁止する)というようなのもありますよ。 T: 日本語にはなぜ原因構文が少ないのですか。 Y: 日本語になぜ少ないかと言われてもねえ。
西洋の言語はSVO型が優勢で、人が現実を語るとき、無生物が主語でも、このパターンに乗せたくなるのしょう。
日语小常识:假名中最基础的就是五十个清音了,称为“五十音”,不少原来想自学日语的朋友就是被它挡在了门外。你不要看它们很多,就被吓住了。其实,它们是有规律的。它们每五个一行,一共是十行。下面就是“五十音图”了,你花几秒钟大概看一下,不需要记住任何东西,有个印象就行。
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